ものすごく大きくなったプリントというのは、ものすごく大きくなったネガにほぼ等しくて、今までにもう知っていると思っていたそのネガの、もっと違う表情が見えてくる。
撮ったら終わってしまうのではなくて、何度も何度も時間をかけて、今とそのシャッターによって切断されたその時を行き来する面白さを改めて実感している。
水張りによるパネル加工の利点によるところも大きい。
水張り技法は、紙を水に浸けてふやかし「膨張しきった状態」のまま木製のパネルに張りつけて、辺を釘や針で留めてしまい、そのまま乾燥させるというもの。紙が太鼓の膜のようにピンピンに張りつめて、枠木に水張りした紙を叩くと、まるで太鼓のようなボーンという音がする。水張り技法は水にふやける紙でしかできないので、写真紙でいうとバライタ紙でしかできない。さらにいえば、水に深い関わりのある暗室技術ならではの「水によって仕上がる写真」と言えるかもしれない。
水張りはバライタ紙のデメリットをほぼ消すことができる。バライタ紙はレジンコート紙と違って、薬品処理をした後にさらにいくつかの処理行程が必要な「面倒な紙」だが、その行程を省略できる。そういった面倒を水張り以外の方法で解消した、当時の「次世代ペーパー」がRC紙であったので、それよりも昔はこの七面倒な紙しかなかったらしい。もちろん、利便性のために犠牲になった部分というのもあって、面倒な行程を経るだけの良さを実感する人もたくさんいるようだ。(バライタ紙とRC紙の違いについては省く)
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さて、大伸ばしは楽しいが、いくつか問題が出てきた。
大全紙から仕上げたF10号パネル
これは解消方法を思いついたので、何度もやってみるしかない。
角がひしゃげる…
そして悩ましいのが現像ムラだ。これはおそらく現像タンクに薬品を投入するとき、投入「し始め」から投入「し終わってタンクを倒して転がして全体に薬品が行き渡る」瞬間までにタイムラグが生じているために、急激に反応する現像液がそのタイムラグを如実に表してしまっているのだと思われる。
線状に浮き上がったムラ
(薬液投入時に真っ先に垂直にかかって液が垂れた部分と思われる)
これを解消するには、現像液を極端に薄くして処理時間を極端に伸ばすか、それとも皿現像をするときドボンといっぺんに沈めるときと同じように「均一に」タイムラグが起こらないほどに速やかにいっぺんに薬液反応をさせる必要があると思われる。大全紙の皿現像は現実的に無理だと思っているので、他の方法でなんとかするしかない。
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そこで、薬液を投入するときの投入方法について見直すことにした。「全体に、いっぺんに、すみやかに、均一に」薬液と印画紙との最初の接触が起これば良いわけだから、そのようになる装置を作ってみた。
年季の入った扇風機を壊して、モーターだけを取り出した
モーター軸に半球状の木材を背中合わせに取り付けた
タンクを横倒しにした状態でキャスターに接地させる台
「回すくん1号」の完成
2リットルの薬液がちょうど中の紙を浸しきる程度の勾配に傾けて、回転しているタンクに薬液をスーッとすみやかに流し込めば、かなり滑らかに全体に行き渡るはずだ。試してみないとわからないが、きっとうまくいくような気がする。